
受賞の言葉
「無限」を書き表そうとするうちに、こちらまでその中に取り込まれたような感覚に陥り、執筆中、恐ろしかったのをよく覚えています。終わりが来るのを拒むような、死ぬまでこれだけを書き続けることを求めてくるような、「無限の玄」は私にとってそんな作品でした。雑誌が出ても終わった気がせず、実をいうと、今もまだその感じが続いています。このたびの受賞が餞になり、遠くへ旅立ってくれることを願っています。
選評
私はこの若い作家に、前作の『リリース』の時から期待し、注目していた。『リリース』の中に次のような一文があったのを記憶している。「薪をくべる者の炎への期待」。薪をくべる者も炎に期待する者ももちろん作者だが、読者にはその炎で暖を取る喜びがある。(中略)
ありえない物語を語るための敷居は低く設定されていて、秀逸な細部とエピソードが重なり、連なるうちに我々はいともたやすくちょっと歪んだ宙間(ちゅうげん)に遊ぶことができる。功績は、主人公〈僕〉の無垢と詩魂にある。(中略)
小説を支える思想は柔軟で、かつ揺るぎがない。作者はこのような文体をどこで手に入れたのだろう。
ありえない物語を語るための敷居は低く設定されていて、秀逸な細部とエピソードが重なり、連なるうちに我々はいともたやすくちょっと歪んだ宙間(ちゅうげん)に遊ぶことができる。功績は、主人公〈僕〉の無垢と詩魂にある。(中略)
小説を支える思想は柔軟で、かつ揺るぎがない。作者はこのような文体をどこで手に入れたのだろう。
受賞作の『無限の玄』は、その文体の閃きと余韻に達者なものを感じた。各々の登場人物にも個性があり、父親が何度も生き返るという幻想的な設定も、彼らの反応を通じて一層、効果的となった。野心的ではあるが、あまりに未整理だった前候補作『リリース』と比すれば、長足の進歩であり、設定を絞り込むことで、通念的な家族制度への懐疑という著者の主題は、各段に洗練された。
第159回芥川龍之介賞
News
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- 2018.10.2
- 野間文芸新人賞候補になりました詳細はコチラ
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- 2018.9.22
- 朝日新聞に斎藤美奈子さんによる書評が掲載されました詳細はコチラ
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- 2018.9.18
- 「小説トリッパー」秋号に倉本さおりさんによる書評が掲載されました
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- 2018.9.12
- 「anan」に瀧井朝世さんによる著者インタビューが掲載されました詳細はコチラ
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- 2018.9.2
- 毎日新聞「COVER DESIGN」に掲載されました(菊地信義さん・選)
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- 2018.8.28
- 「サンデー毎日」9/9号に著者インタビューが掲載されました
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- 2018.8.17
- 「週刊現代」9/1号に長嶋有さんによる書評が掲載されました
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- 2018.8.7
- 「InRed」9月号に書評が掲載されました
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- 2018.8.5
- 産経新聞に著者インタビューが掲載されました詳細はコチラ
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- 2018.7.25
- 毎日新聞夕刊「文芸時評」に書評が掲載されました
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- 2018.7.6
- 「文藝」秋季号に紅野謙介さんによる書評が掲載されました
古谷田奈月(こやた・なつき)
1981年、千葉県我孫子市生まれ。2013年、「今年の贈り物」で第25回ファンタジーノベル大賞を受賞、『星の民のクリスマス』と改題して刊行。2017年、『リリース』で第30回三島由紀夫賞候補、第34回織田作之助賞受賞。2018年、「無限の玄」で第31回三島由紀夫賞受賞。「風下の朱」で第159回芥川龍之介賞候補となる。その他の作品に『ジュンのための6つの小曲』、『望むのは』など。

待望の文庫化!
古谷田奈月
無限の玄/風下の朱
死んでは蘇る父に戸惑う男たち、魂の健康を賭けて野球する女たち──。
清新にして獰猛な赤と黒の物語はいまスパークする!
超弩級の新星が放つ奇跡のカップリング小説集!
清新にして獰猛な赤と黒の物語はいまスパークする!
超弩級の新星が放つ奇跡のカップリング小説集!
ちくま文庫/208頁/ISBN:978-4-480-43844-7/定価:本体748円(10%税込)