われわれはどこから来たのか――
宇宙創成から生命誕生、さらには現代文明まで138億年の歴史を語り尽くす
ビッグヒストリーの到達点!
ビッグヒストリーの到達点!
われわれはどこから来たのか──
宇宙創成から現代までを一望し、この永遠の謎に挑む
世界各国で話題沸騰、驚異の138億年史!
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18分間で138億年の歴史を語り尽くす
再生数1000万回超、クリスチャン教授の伝説のTED講義
Introduction
まえがき
私たちは物事を理解するために物語を語る。
人間とはそういうものだ。
── リア・ヒルズ「心への回帰(Return to the Heart)」
現代版のオリジン・ストーリー(万物の起源の物語)という発想が関心を集めている。私が興味を持ったきっかけは、1989年にオーストラリアのシドニーにあるマッコーリー大学で初めて教えた万物の歴史についての講座だった。私はその講座を人間の歴史を理解する一つの方法と見ていた。当時、私はロシアとソヴィエト連邦の歴史を教え、研究していた。だが、民族あるいは帝国の歴史(ロシアは民族でも帝国でもあった)を教えると、最も根源的なレベルで人間は競合する部族に分かれているという意識下のメッセージを伝えてしまうのではないかと心配だった。核兵器を持つ世界にあって、そんなメッセージは、ためになるのだろうか? キューバ・ミサイル危機のとき、高校生だった私は、人間がこの世の終わりを目前にしていると思ったことを、ありありと覚えている。何もかもが間もなく破壊されようとしていた。そして、「向こう」のソ連にも同じぐらい怖がっている子供たちがいるのだろうかと思ったことも覚えている。なにしろ、彼らも人間なのだから。
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子供の頃、私はナイジェリアに住んでいた。そのおかげで、人間は単一の途方もなく多様なコミュニティである、という強烈な感覚を植えつけられ、十代になって、イギリスのサウスウェールズにあるアトランティック・カレッジというインターナショナルスクールに行ったとき、その感覚が裏づけられた。
数十年後、本職の歴史家として、人間の統合的な歴史をどう教えるかについて考え始めた。すべての人間が共有する遺産について教え、なおかつ、その物語を語るにあたって、民族の堂々たる歴史には付き物の壮大さや畏敬の念を多少なりとも伝えられるだろうか? 旧石器時代の祖先や新石器時代の農耕民が、歴史研究の対象として圧倒的優位を占めてきた支配者や征服者や皇帝たちと同じぐらい重要な役割を果たしうるような物語を人間は必要としていると、私は確信するようになった。
やがてわかったのだが、これはどれ一つ独創的な考えではなかった。偉大な世界史家のウィリアム・H・マクニールは1986年に、「人間全体としての勝利と苦難」の歴史を書くのが、「我々の時代に歴史研究に従事する者の道義的義務」だと主張している。さらに時代をさかのぼるものの、H・G・ウェルズは同じ思いで、第一次大戦の殺戮に対する応答として人間の歴史を書いた。
私たちは気づいた。今や、全世界における共通の平和以外には平和はありえず、全体の繁栄以外には繁栄はありえないのだ。だが、共通の平和と繁栄は、共通の歴史認識抜きにはありえない。 ……狭量で、利己的で、相争うナショナリズムの伝統しかなければ、人種や民族は知らず知らず闘争と破壊へと向かう運命にある。
ウェルズには他にも承知していることがあった。すなわち、人間の歴史を教えようと思うなら、おそらく万物の歴史を教える必要がある、ということだ。だからこそ彼の『世界史概観』は宇宙の歴史になったのだ。人間の歴史を理解するには、これほど奇妙な種がどのように進化したかを理解しなくてはならず、それには地球における生命の進化について学ぶ必要があり、それには地球の進化について学ぶ必要があり、それには恒星や惑星の進化について学ぶ必要があり、それには宇宙の進化について知る必要がある。今日では、ウェルズが書いていた頃には考えられなかったほど正確かつ科学的に厳密な形でその物語を語ることができる。
ウェルズはすべてを統合する知識を探し求めていた。さまざまな民族だけではなく学問分野も結びつける知識だ。オリジン・ストーリーはみな、知識を統合する。ナショナリズムの歴史観を綴ったオリジン・ストーリーでさえそうだ。そして、最も雄大なものは、多くの時間スケールの枠を越え、幾重にも重なる解釈とアイデンティティの同心円を貫いて、自己から家族や氏族(クラン)へ、民族、言語集団あるいは宗教へ、人間と生物の巨大な円の数々へ、そして最終的には自分は森羅万象の一部、全宇宙の一部であるという考え方へと人を導いていくことができる。
だがここ数世紀の間に、異文化間の接触が増え、オリジン・ストーリーや宗教がみな、どれほどそれぞれの土地の慣習と自然環境に根差しているかが明らかになった。そうした局地性があったからこそ、グローバル化と新しい考え方の拡散によって、伝統的な知識への信頼が損なわれたのだ。自分たちのオリジン・ストーリーを固く信じている人でさえも、さまざまなオリジン・ストーリーがあり、まったく異なる内容を語っていることに気づき始めた。自らの宗教や部族や民族の伝統を積極的に、さらには暴力に訴えてさえ守るという対応を見せる人もいた。だが、たんに信仰や信念を失い、それに伴って自分の立場がわからなくなり、森羅万象の中で自分がどんな位置を占めているかという感覚を失う人も多かった。アノミー、すなわち、あてどなさや意味の欠如の感覚、ときには絶望感さえもが浸透し、20世紀の文学や芸術、哲学、学問のあれほど多くを特徴づけた理由も、そのような信頼の喪失で説明しやすくなる。多くの人はナショナリズムのおかげでいくばくかの帰属意識を抱くことができたが、地球全体がつながった今日の世界では、ナショナリズムは特定の国の中で国民を結びつけるそばから、人間社会を引き裂くことは明らかだ。
私は楽観的な信念を持って本書を書いた。私たち現代人は慢性的な分裂と意味の欠如の状態に陥ることを運命づけられてはいないと信じて。現代という創造的な大嵐の中で、新しいグローバルなオリジン・ストーリーが現れつつある。それは、従来のどんなオリジン・ストーリーにも劣らぬほど意味と畏敬と神秘に満ちているが、多くの学問領域にまたがる現代の科学の学識に基づいている。その物語は完成には程遠いし、豊かに生きる術や持続可能な形で暮らす術について、古いオリジン・ストーリーの見識を取り込む必要があるかもしれない。だが、その物語は知る価値がある。なぜならそれは、入念に吟味された情報と知識から成るグローバルな遺産を拠り所にしており、世界中の人間の社会と文化を受け容れる、初めてのオリジン・ストーリーだからだ。その創出は集団的でグローバルな事業であり、それはブエノスアイレスでも北京でも、ラゴスでもロンドンでも通用する物語であるべきだ。今日、大勢の学者がこの現代版のオリジン・ストーリーを構築して語るという胸躍る課題に取り組み、その物語が(あらゆるオリジン・ストーリーと同じように、ただし今日のグローバル化した世界のために)提供することになるだろうような指針と、目的を共有しているという意識とを、探し求めている。前述のように、宇宙の歴史を教えるという試みを私自身が始めたのは1989年だった。そして1991年には、自分がしていることを言い表すために、「ビッグヒストリー」という言葉を使いだした。その物語の全貌が少しずつ見えてきたときになってようやく、新たに出現しつつあるグローバルなオリジン・ストーリーの主要な筋の数々を、自分がそこから引き出そうとしていることに気づいた。今日、ビッグヒストリーは世界のさまざまな地域の大学で教えられており、ビッグヒストリー・プロジェクトを通して、何千もの高校でも教えられている。
私たちは21世紀のグローバルな重要課題や機会に取り組むなか、過去をこのように新しい形で理解することが必要になる。本書は、この壮大で精緻で美しく感動的な物語の最新版を語るという、私の試みにほかならない。
数十年後、本職の歴史家として、人間の統合的な歴史をどう教えるかについて考え始めた。すべての人間が共有する遺産について教え、なおかつ、その物語を語るにあたって、民族の堂々たる歴史には付き物の壮大さや畏敬の念を多少なりとも伝えられるだろうか? 旧石器時代の祖先や新石器時代の農耕民が、歴史研究の対象として圧倒的優位を占めてきた支配者や征服者や皇帝たちと同じぐらい重要な役割を果たしうるような物語を人間は必要としていると、私は確信するようになった。
やがてわかったのだが、これはどれ一つ独創的な考えではなかった。偉大な世界史家のウィリアム・H・マクニールは1986年に、「人間全体としての勝利と苦難」の歴史を書くのが、「我々の時代に歴史研究に従事する者の道義的義務」だと主張している。さらに時代をさかのぼるものの、H・G・ウェルズは同じ思いで、第一次大戦の殺戮に対する応答として人間の歴史を書いた。
私たちは気づいた。今や、全世界における共通の平和以外には平和はありえず、全体の繁栄以外には繁栄はありえないのだ。だが、共通の平和と繁栄は、共通の歴史認識抜きにはありえない。 ……狭量で、利己的で、相争うナショナリズムの伝統しかなければ、人種や民族は知らず知らず闘争と破壊へと向かう運命にある。
ウェルズには他にも承知していることがあった。すなわち、人間の歴史を教えようと思うなら、おそらく万物の歴史を教える必要がある、ということだ。だからこそ彼の『世界史概観』は宇宙の歴史になったのだ。人間の歴史を理解するには、これほど奇妙な種がどのように進化したかを理解しなくてはならず、それには地球における生命の進化について学ぶ必要があり、それには地球の進化について学ぶ必要があり、それには恒星や惑星の進化について学ぶ必要があり、それには宇宙の進化について知る必要がある。今日では、ウェルズが書いていた頃には考えられなかったほど正確かつ科学的に厳密な形でその物語を語ることができる。
ウェルズはすべてを統合する知識を探し求めていた。さまざまな民族だけではなく学問分野も結びつける知識だ。オリジン・ストーリーはみな、知識を統合する。ナショナリズムの歴史観を綴ったオリジン・ストーリーでさえそうだ。そして、最も雄大なものは、多くの時間スケールの枠を越え、幾重にも重なる解釈とアイデンティティの同心円を貫いて、自己から家族や氏族(クラン)へ、民族、言語集団あるいは宗教へ、人間と生物の巨大な円の数々へ、そして最終的には自分は森羅万象の一部、全宇宙の一部であるという考え方へと人を導いていくことができる。
だがここ数世紀の間に、異文化間の接触が増え、オリジン・ストーリーや宗教がみな、どれほどそれぞれの土地の慣習と自然環境に根差しているかが明らかになった。そうした局地性があったからこそ、グローバル化と新しい考え方の拡散によって、伝統的な知識への信頼が損なわれたのだ。自分たちのオリジン・ストーリーを固く信じている人でさえも、さまざまなオリジン・ストーリーがあり、まったく異なる内容を語っていることに気づき始めた。自らの宗教や部族や民族の伝統を積極的に、さらには暴力に訴えてさえ守るという対応を見せる人もいた。だが、たんに信仰や信念を失い、それに伴って自分の立場がわからなくなり、森羅万象の中で自分がどんな位置を占めているかという感覚を失う人も多かった。アノミー、すなわち、あてどなさや意味の欠如の感覚、ときには絶望感さえもが浸透し、20世紀の文学や芸術、哲学、学問のあれほど多くを特徴づけた理由も、そのような信頼の喪失で説明しやすくなる。多くの人はナショナリズムのおかげでいくばくかの帰属意識を抱くことができたが、地球全体がつながった今日の世界では、ナショナリズムは特定の国の中で国民を結びつけるそばから、人間社会を引き裂くことは明らかだ。
私は楽観的な信念を持って本書を書いた。私たち現代人は慢性的な分裂と意味の欠如の状態に陥ることを運命づけられてはいないと信じて。現代という創造的な大嵐の中で、新しいグローバルなオリジン・ストーリーが現れつつある。それは、従来のどんなオリジン・ストーリーにも劣らぬほど意味と畏敬と神秘に満ちているが、多くの学問領域にまたがる現代の科学の学識に基づいている。その物語は完成には程遠いし、豊かに生きる術や持続可能な形で暮らす術について、古いオリジン・ストーリーの見識を取り込む必要があるかもしれない。だが、その物語は知る価値がある。なぜならそれは、入念に吟味された情報と知識から成るグローバルな遺産を拠り所にしており、世界中の人間の社会と文化を受け容れる、初めてのオリジン・ストーリーだからだ。その創出は集団的でグローバルな事業であり、それはブエノスアイレスでも北京でも、ラゴスでもロンドンでも通用する物語であるべきだ。今日、大勢の学者がこの現代版のオリジン・ストーリーを構築して語るという胸躍る課題に取り組み、その物語が(あらゆるオリジン・ストーリーと同じように、ただし今日のグローバル化した世界のために)提供することになるだろうような指針と、目的を共有しているという意識とを、探し求めている。前述のように、宇宙の歴史を教えるという試みを私自身が始めたのは1989年だった。そして1991年には、自分がしていることを言い表すために、「ビッグヒストリー」という言葉を使いだした。その物語の全貌が少しずつ見えてきたときになってようやく、新たに出現しつつあるグローバルなオリジン・ストーリーの主要な筋の数々を、自分がそこから引き出そうとしていることに気づいた。今日、ビッグヒストリーは世界のさまざまな地域の大学で教えられており、ビッグヒストリー・プロジェクトを通して、何千もの高校でも教えられている。
私たちは21世紀のグローバルな重要課題や機会に取り組むなか、過去をこのように新しい形で理解することが必要になる。本書は、この壮大で精緻で美しく感動的な物語の最新版を語るという、私の試みにほかならない。
Chapter
目次
- まえがき
- 序章
- 年表
第 I 部:宇宙
- 始まり ── 臨界1
- 恒星と銀河 ── 臨界2と臨界3
- 分子と衛星 ── 臨界4
第 II 部:生物圏
- 生命 ── 臨界5
- 小さな生命と生物圏
- 大きな生命と生物圏
第 III 部:私たち
- 人間 ── 臨界6
- 農耕 ── 臨界7
- 農耕文明
- 現代世界の前夜
- 人新世 ── 臨界8
第IV部:未来
- すべてはどこへ向かおうとしているのか
- 謝辞
- 付表 人間の歴史に関する統計
- 解説(辻村伸雄)
- 用語集
- 参考文献
- 注
「この奇妙な種はいったい何者なのか(……)この問題はあまりに複雑で多岐にわたり、多くの含意を持つので、科学的な回答を生み出すのは不可能だと感じている者もいる。だが興味深いことに、人間の歴史をより広い生物圏や宇宙の歴史の一部として捉え直すと、私たちの種の顕著な特徴がぐっと際立ってくる。
今日、私たちを異質な存在にしているのは何なのかという問いに対して、さまざまな分野の学者たちが一様に、似たような結論にたどり着きつつあるようだ。」(第7章より)
今日、私たちを異質な存在にしているのは何なのかという問いに対して、さまざまな分野の学者たちが一様に、似たような結論にたどり着きつつあるようだ。」(第7章より)
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コメント
つまるところ、生命とは奇跡だ……説得力に満ちた万物の歴史
クリスチャン氏はこの物語を言葉巧みに語っており、
事実上、現代科学の短期講座になっている。
これは宇宙をめぐる手短な歴史だ、それも良質の
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あたかもビッグバンのように、この本は畏敬の念を抱かせる……
実にすばらしい
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本書でデイヴィッド・クリスチャンは、世界に関するあらゆる知識を
歴史的に秩序づける見事な方法を見いだした。
これは驚くべき成果だ
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宇宙のなかに私たち人間を位置づけるのみならず、
現代世界を理解し、その未来を見通す手がかりをも提示した類い稀な一冊
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すべてのページに魅力的なアイディアがあふれており、
すぐれた推理小説のように読み進めてしまう。まさに記念碑的な著作
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Information
お知らせ
-
- 新聞
- 2020.1.25
- 朝日新聞に長谷川眞理子さんによる書評が掲載されました。
-
- 新聞
- 2020.1.11
- 日経新聞に短評が掲載されました。
-
- 雑誌
- 2020.1.10
- 文藝春秋2020年2月号「世界の知性が日本人に教える二〇二〇年の「羅針盤」」にて、著者インタビューが掲載されました。
-
- 新聞
- 2019.12.12
- 日経新聞夕刊「目利きが選ぶ3冊」にて、竹内薫さんが四つ星(★★★★)で紹介してくださいました。
-
- 雑誌
- 2019.12.9
- 週刊ダイヤモンド2019年12/14号「知を磨く読書」にて、佐藤優さんによる書評が掲載されました。
-
- 新聞
- 2019.12.2
- 読売新聞夕刊で著者インタビューが掲載されました。
-
- イベント
- 2019.11.25
- アレセイア湘南高校で特別授業「ビッグヒストリーと気候変動」が行われました。
-
- イベント
- 2019.11.24
- ジュンク堂書店 池袋本店でトークショーが行われました。(孫岳氏、辻村伸雄氏(司会))
-
- イベント
- 2019.11.23
- 「ビッグヒストリーとリベラルアーツ シンポジウム」で講演、バリー・ロドリーグ氏・出口治明氏と鼎談されました。
デイヴィッド・クリスチャン
柴田裕之 訳
オリジン・ストーリー
138億年全史
四六並製/ 416 頁/本体2200 円+税/ISBN: 978-4-480-85818-4
解説:辻村伸雄