梅田望夫インタビュー「ネットは書籍出版を変えるか」梅田望夫

 出版社に何か恨みのある人は、そこに毎日のように何かを書き込みにやってくる可能性がある。だけど、そういうことをやってくる人に対して「なんだ、おまえ、そんなことやるな」ということを言う人が出てくることもあり、というなかで、全体をなんとか舵取りしていく、という発想が、やはり企業にはないですよね。その面白さなのです、個人のブログの良さは。

 個人でも、すごくプロテクティブな人で、コメント欄を閉鎖していて、トラックバックも受けない、という人はいて、ここはそんなに盛り上がらない。僕などがよく言われるのは、「なんで、あんなに悪口書かれているのを、そのまま残してるの」ということなのですが、あれは残しておいたほうがいいのです。もちろん、何か書かれれば頭にくることもあるのだけれど、同時に「懐が深いですね」なんて感心してもらえることがあったり。いいところもあれば悪いところもありで、これも、開放性というものを前提にしたマネジメントをするかどうか、というところに行き着くのです。

 しかし、なぜ大組織は開放できないで個人は開放できるかというと、個人は失うものがあまりないからなのです。僕が何か言われたって、ちょっとイヤな気分になったりするだけですが、企業によっては、それによってイメージダウンで本が売れなくなったりとか、誰かが取引してくれなくなったりとか、そういうことが起こりうる。

 企業一般、たとえば電機メーカーとか、自動車メーカーとか大きな組織では、開放性が悪いほうに働いて……というネガティブな要素と、開放性によるポジティブな要素を置いてみたときに、個人のほうは「開放してみるか」という感じになると思うのですが、企業のほうはなかなか「開放してみるか」ということにはならないと思います。それは、しょうがないだろうと思うのです。

 今回の筑摩のHPと僕のブログの連携というのは、結構いい連携で、筑摩のHPは確かにそんなにアクセス数は多くないかもしれないけれど、そこもオフィシャルに出版社として、ウェブ進化論についての感想ブログの紹介などをやってくれていて、それにリンクをはっている僕のブログはサンドバックのようになってもかまわない(笑)。

 もう少しいろいろ工夫の余地はあると思いますが、個人のブログの野放図な開放性のようなものをそのまま、失うものが大きい企業が取り入れることができるか、というと、そうでもない、というふうに思います。 (了)

(2006年3月8日、於:筑摩書房会議室、
聞き手:菊池明郎[(株)筑摩書房社長]・山野浩一[Webちくま編集長]・福田恭子[編集部])

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