当世大学入試現代文事情

第1回 大学入試現代文が高校国語教科書をリードする

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② 教科書の差異を作り出す現代評論

 こうした同質化現象のなかで、各社どのような観点で教科書づくりに当たるかというと、できるだけ新しい教材、それも大学入試現代文の傾向を反映した現代評論の教材で差異をつけるということになります。

 現在、定番となっている教材も、最初は、大学入試で取り上げられたものが数多くあります。先ほど挙げた岩井克人、黒崎政男、西垣通の作品は、複数の大学で、入試問題として繰り返し出題されています。

 各大学は、入試問題の作成にあたって、できるだけ新鮮な内容のものを出題したいという意図を持っていると思われます。これは過去問との重複を避けようということもありますが、教科書に掲載されている教材との重複を避けるということでもあります。2005年の大学入試センターの現代文の問題に、大岡信の文章が出題されましたが、同じ教材が第一学習社の教科書に別の題名で掲載されていて、社会問題化したことがありました。

 教科書編集の現場では、いち早く大学入試問題の傾向を把握し、それを編集に生かそうと努めます。もちろん、そうした観点だけから教材を選定しているわけではありませんが、それが大学入試を重視する現場の意向にも沿うということなのでしょう。大学入試問題の作成と教科書編集の場では、お互いの動向を注視しながら、作業が進められていくということになります。

 新刊の出版(雑誌発表や新聞掲載の場合もあります)→次年度の大学入試問題として出題→教科書編集(各種副教材編集)→同じ著者による作品が大学入試問題として出題→教科書編集(各種教材編集)という円環構造が自然に生まれることになります。

 現在の教科書ではお馴染みの鷲田清一、鈴木孝夫、加藤周一、内山節、茂木健一郎といった面々も、毎年、大学入試問題で大いに活躍しているのは御存知の通りです。

 次回から、入試指導の参考となるよう、今後大学入試で人気となりそうな筆者を紹介していきます。

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