太宰治賞
第25回

2009/07/23

受賞の言葉

 名誉ある太宰治賞を賜りまして、選考委員、関係者の方々に、こころより御礼申し上げます。

 小説家になりたい。無邪気にそう志したのは十五歳のときです。同級生と競争しながら小説を読んでいるうちに、自分でも書きたくなって、大学ノートに小説(のようなもの)を書きはじめました。それなのに、高校受験に流されて、工学系の道に進んでいたのです。読書仲間すら周りにいない中、ひとりで書いては読むを続けているうちに、今度は就職活動に流されていました。

――平凡な家庭を築き、日の要求にきちんと向きあい、小説はあくまでも趣味。そう決意したつもりです。いや、そうなる予定でした。しかし、気がつけば三十七歳、独身。残業帰りのとある夜、段ボール箱いっぱいのよしなしごとを眺めているうちに、かつての志と真剣に向き合おうと思い立ち、ようやく蛮勇の大ナタをふるったわけです(当時の自分に言いたい。だったら婚カツしろと)。

 脱サラ後三年間の悪戦苦闘と迷走の数々は、紙幅の都合で触れません。ただ、このたび発表の場をいただいた作品の主人公と同様だったと申し上げておきます。皆様方に御笑読いただければ、作者として、幸甚これに優るものはございません。

とにかく、遅咲きの桜ではありますが、初心を大切に、未熟な小説道への精進に励みつつ、日常の冒険やロマンチックな普通人を描いていければと、愚考しております。

 太宰治氏といえば、学生時代に授業そっちのけで読み耽っていた思い出があります。しかし本賞をいただいた以上、今度は仕事として氏の名を辱めない責任を負いました。そんな今の意気込みを『斜陽』の一節を拝借し、私の受賞の言葉に代えたいと思います。

 戦闘、開始。

 

仕事机の窓辺で                                                                   柄澤昌幸

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