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『竹取物語』冒頭を読む(その1)

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●翁の名前をなぜ語るのか

 なぜ「名をば、さぬきの造となむ言ひける。」とするのか。なぜ「その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。」と語るのか。その意味を考えてみたい。

 「名をば、さぬきの造となむ言ひける。」と名前を強調している。ここには二通りの意味が読める。一つには、「さぬきの造」という名前そのものに強調すべき意味合いがあったということ。もう一つは、名前を持つ(示す)にたる人物であったということを強調しているということである。前者の読みは、「さぬきの造」の持つ意味を考証していくことが求められる。これは本論の意図するところではないので、ここでは取りあげない。もう一つの意味、すなわち名前を持っていること自体がここで強調されているとする読みを考えてみよう。

 冒頭で名前が出てくるのは、翁だけである。翁の連れ合いである嫗は「妻の嫗にあづけて養はす。」としか語られていない。嫗の登場は、冒頭部分ではそこだけである。それに対して翁はどうか。

 竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけて後に竹取るに、節を隔てて、よごとに、黄金ある竹を見つくること重なりぬ。かくて、翁、やうやう豊かになりゆく。
(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁1行目/『国語総合 改訂版』236頁1行目)
 翁、心地悪しく苦しき時も、この子を見れば苦しきこともやみぬ。腹立たしきことも慰みけり。
 翁、竹を取ること、久しくなりぬ。勢ひ猛の者になりにけり。
(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁14行目/『国語総合 改訂版』236頁14行目)

 翁は、竹の中に黄金を発見し、精神的な苦しみからも解放され、「勢ひ猛の者」へとなっていく。翁と嫗の扱いは明らかに対等ではない。名前を持つことは、個性を持つことであり、物語の中で中心的に活躍していくことを意味している。冒頭で名前が示され、それが係り結びによって強調されることは、この人物がそのような役割を与えられている人物であることを示していることになる。『竹取物語』の冒頭は、明らかに「翁の物語」として語り出されているのである。

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