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ちくま新書

女の氏名誕生

——人名へのこだわりはいかにして生まれたのか

名前の疑問は歴史で解ける!

「お」の付く女性名はどこに消えたのか? 江戸時代の女性名が、明治期に男女共通の「氏名」となり、現代の諸問題を抱えるまで。人名の歴史的変遷を明らかにする

定価

1,320

(10%税込)
ISBN

978-4-480-07644-1

Cコード

0221

整理番号

1818

2024/09/09

判型

新書判

ページ数

368

解説

内容紹介

江戸時代の女性名は現代とどう違ったのか?「お」の付く女性名はどこに消えたのか? 近代女性名の「子」とは何か? 何が今日の「夫婦別姓」論争を生み出したのか? アイデンティティとして名前に執着する現代の常識は、どのように生まれたのか?――男性名とは別物だった江戸時代の女性名が、明治期に男女共通の「氏名」となって現代の諸問題を抱えるまで、近代国民国家の形成、文字の読み書きや捺印、戦後改革など様々な事象を通して、日本人名文化の歴史的変遷を明らかにする。

目次

プロローグ―愛着の始まりを探して 
「お」の付かない現代/女性からみた「氏名」/本書の構成

第一章 江戸時代の女性名 
1「お」の字とは何か?  
圧倒的な二音節型/おの字名の「お」/「お」なしの作法/おやすがやすか、やすがおやすか?/並行する正解/「お」は何れより来たる?
2多様な二音節型
意味不明とはいうけれど/符号としての本質/異なる町村を比べる/だんだん離れてみる/風習はいろいろ
3三音節型と地域性 
三音節型の類型/三音節型の分布状況/濃度の違い/「お」は付かない/四音節型の孤城/類型とその他/これはあなたのお名前か?

第二章 識字と文字の迷宮 
1文字を書くのは誰か?  
自分の名前を書けたのか/ムラのある世界/職業と識字/村請制と村役人/「村」と「家」に生きる/無識字もいる日常/再び女性名の森へ
2仮名文字と仮名遣い 
おてゐとは俺のことかとおテー言い/音韻と仮名遣い/音を再生できるか?/方言と相通/書き手の癖?/仮名の字形もこだわらない/伝わるのなら漢字でも/それは書き交ぜではない/姫様にご用心
3似て非なる捺印文化 
実印に名前なし/シルシに始まる捺印文化/家の印と女の印/印からもわかる多表記通行

第三章 名付け・改名・通り名 
1名付けと改名
最初の名付け/女は改名しない?/幼年期の改名/願掛けの名付け/生きるために/婚姻時の改名/名前の相性占い/法名への改名/奉公と通り名/まつ改しげ/名前はその人だけのもの?/昔の名前は出てきません
2源氏名と三字名 
源氏名という通り名/吉原の遊女/禿と芸者と遣り手/京都の芸妓/奥女中の名前/名前が変わっても
3朝廷女官の呼名 
偉すぎる女房たち/それ以下の女房と女中/院・宮・摂家の女房/伊予は小槻敬子

第四章 人名の構造と修飾 
1男の人名構造 
男性名との違い/人名以前の氏姓/氏姓の「姓」化/嵯峨天皇と「名」の変革/官位で呼ぶ/実名と仮名の並立/家名の「姓」化/官位の自称と主客逆転/庶民の名前/庶民の苗字/人名的要素は浮気しない
2女性名の変遷 
「売」圧倒の時代/貴族女性の「子」/新型「何子」は形だけ/にょ・こ・のまえ・ごぜん/おの字名への混沌/繁姫源郁子/女性名に苗字は付かない
3苗字と女房 
公儀の常識/近世苗字の三大要素/佐藤のおせん/赤林幸/女房という名前/慣習としての女房/今とは違う人名文化/妻の呼び方
4文雅の世界は無理をする 
およしは葭女、おさとは高子?/飾りの子と女/松本順女と広田濃婦子/無理からみえる道理/巫女の名/やり直しの始まり

第五章 明治の「氏」をどう扱うか? 
1近代氏名の時代へ 
日常の瓦解/おいよ・おうたにゃ関係ない/女官たちの改名/苗字自由令と戸籍/そらそうよ/氏名の誕生/男女人名の再合流
2苗字と女性と新政府 
新制「氏」の誕生/内務卿の思惑/妻は夫の姓氏を用いよ/廃案の背景/苗字強制令/内務卿の再挑戦/議論の紛糾/妻は所生の氏を用いよ/民法までは我慢/政府から現場へ
3現場の判断と種痘名簿 
戸長と種痘/種痘医福永謙造/根強い常識/そこにこだわりはあるか?/藤田嘉蔵妻太田はる
4民法による決着 
戸籍用紙の先行/ボアソナード民法/現場の憤懣/「氏名」の確立

第六章 「お」と「子」の盛衰 
1「子」の字の流行と変質 
国民国家への改変/三音節型はいつ全国化するか/近代「子」の字の起点/名の一部とみることを得ず/戸籍名「何子」の流行/「お」から「子」へ/非難と弁護のなかで/「お」の字の斜陽
2「子」なしにも「子」をつける作法 
「子」は「お」の後継/手紙における「子」の作法/女学生の「妙な流行」/「子」は付けなくていい/変わりゆく執着

第七章 字形への執着 
1四角な文字と片仮名 
くずし字を先に学ぶ/文字は手書き/四角な文字の襲来/女性名の片仮名化と識字率/片仮名先習と「変体仮名」の誕生/執着は排他の兆し/実印は一代限り/名を刻む朱色の実印
2一定主義の勃興 
異字の通用/同字の異体/澤も沢も同じ/迷惑な一定主義/女性の「苦痛」/正太郎は庄太郎にあらず/くずし字を書けない若者たち/姓名の字画
3姓名判断の大流行 
流行のはじまり/煩悶と定着/私的な通名/近代氏名の人名文化

第八章 氏名の現代史 
1変わりゆく漢字 
占領時代と国語改革/当用漢字と平仮名先習/人名の文字制限/当用漢字字体の出現/「標準」は誰のため?/やむを得ぬ人名用漢字/常用漢字と筆写体/情報機器の普及
2愛着の確立 
法務省の方針/愛着の壁/執着から愛着へ/人名用漢字と手書き/文字コードが違うから/戸籍統一文字
3個人の氏へ 
家の廃止と個人の尊重/高度経済成長/改姓はイヤ/別になんとも/氏への現代的愛着
4名による個性の顕示 
美の字とミ音(昭和二〇?五六年)/戦後二音節型とエ・ミ・カ・オリ(昭和五七?平成二年)/美咲時代と多様化(平成三?一四年)/読めない名前の増加(平成一五?令和四年)/現代男性名概観/名付け意識の分断/フリガナ作戦決行前夜

エピローグ―去る者は日に以て疎く…… 
女の名前に氏が付く/氏名へのこだわり/同じ呼び名で違うもの/符号と個性の苦悩/来る者は日に以て親し

あとがき
参考文献

著作者プロフィール

尾脇秀和

( おわき・ひでかず )

尾脇 秀和(おわき・ひでかず):1983年京都府生まれ。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。現在、神戸大学経済経営研究所研究員、花園大学・佛教大学非常勤講師。専門は日本近世史。著書に『近世京都近郊の村と百姓』(思文閣出版)、『刀の明治維新──「帯刀」は武士の特権か?』(吉川弘文館)、『壱人両名──江戸日本の知られざる二重身分』(NHK出版)、『近世社会と壱人両名──身分・支配・秩序の特質と構造』(吉川弘文館)、『氏名の誕生──江戸時代の名前はなぜ消えたのか』(筑摩書房)、『お白洲から見る江戸時代──「身分の上下」はどう可視化されたか』(NHK出版)などがある。

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