森田健太郎
( もりた・けんたろう )森田 健太郎(もりた・けんたろう):1974年生まれ、奈良県出身。東京大学大気海洋研究所教授。専門は魚類生態学。北海道大学大学院水産科学研究科博士課程修了。博士(水産科学)。国立研究開発法人水産研究・教育機構北海道区水産研究所、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター准教授を経て、2022年4月より現職。映画『ミルクの中のイワナ』に出演、編著に『人間活動と生態系』『海洋生態学』(いずれも共立出版)などがある。
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あなたの食べるサケはどこから?
魚類生態学の専門家による、未来への提言。
日本には、13種のサケ科魚類の生息が確認されていて、遺伝的にも生態的にも異なる4つの属に分類される。サケマスとひと口にいっても、多様な生物種なのだ。本書はその生活史をたどり、サケの生きる世界の豊かさを示す。そして、サケの保全に寄与したとされる放流の影響を探り、その意義を問う。サケマス研究の第一人者による、サケ愛に満ちた一冊である。
「一般市民が放流について考えるときの羅針盤となるような本の必要性を強く感じた。……先人から受け継いだ生物多様性は、私たちの世代で絶やすわけにはいかない。未来へとつなぐ責任が、今の私たちにはある。」
帯イラスト:長嶋祐成
序章
1 東京2020オリンピックが問いかけた環境問題
エコラベル/サケと放流/放流と環境認証/スチュワードシップとマネージメント
2 本書の構成について
第1章 サケマスの暮らし
1 サケとマスの種類
2 サケ、マス、サーモン呼称問題
3 サケ科魚類の生活史
産卵/川での暮らし/さまざまなタイプ/海での暮らし/母川回帰/年齢と繁殖回数
4 回遊多型──海へ行くべきか、行かざるべきか
川で十分に成長できたから?/生活史連続体説
コラム1 標識放流の歴史と現在
第2章 人間活動による環境改変
1 ダムによる海川森回廊の分断
ダム遡上障害による種多様性の低下/生活史の変化/魚道という希望
2 川の横の繋がりの分断
氾濫原と網状流路/氾濫原に依存する絶滅危惧種
3 劣化する河川生態系
放流に頼る理由
コラム2 生活史を調べる方法
第3章 もてはやされる放流
1 生き物を放流する社会
種苗放流
2 サケ人工ふ化放流の光と影
20世紀後半のサケ増加要因/沖合漁業の先取り効果/サケ=放流というイメージの形成
3 イベント化する放流
ヒルボーン氏の論文/大人に都合のよい生き物?/観光地化したふ化場で
コラム3 食材としてのサケマスの種類
第4章 放流の何が問題なのか
1 放流の効果をどう評価するか
プラスとマイナスの効果/野生魚との置き換わり──環境収容力
2 遺伝的撹乱
サケの移殖放流/非意図的な移殖/取り返しのつかない渓流魚の自然分布/地域への適応/ふ化事業の陰で生きながらえてきた野生サケ
3 ふ化場へ適応する現代のサケ
ふ化場がもたらす進化/適応度の低下/トロイの遺伝子仮説/サムライサーモン
4 病気や寄生虫の伝播
養殖の落とし穴/多くの問題が絡み合うアユの放流
5 放流効果を調べた事例
生物群集にも影響/生態系ベース管理/テムズ川の教訓
コラム4 魚をダイレクトに観察する川潜
第5章 魚とどう付き合うか
1 放流から脱却すべきか?
2 目的に応じた責任ある放流
水産業のための放流/現代にこそ必要な種川制度と漁業管理/生物保全が目的なら、放流ではなく生息環境の再生/生物保全が目的ではない、情操教育としての放流イベント
3 カムバックサーモン運動からワイルドサーモンプロジェクトへ
昭和のカムバックサーモン運動/ワイルドサーモンプロジェクトの始動/順応的管理/ジレンマは終わらない
4 生き様を守る
コラム5 サケの未来を支える4つのCと脅かす4つのH
あとがき
引用文献