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ちくま文庫

新版 「色のふしぎ」と不思議な社会

——2020年代の「色覚」原論

あなたと私、「赤」が違って見えているかも。

丹念な取材から最新科学が示す「色の見え方」の驚くべき多様性と、悩ましい検査の問題が明らかに。各紙誌で絶賛の書が新情報を加えて待望の文庫化!

定価

1,320

(10%税込)
ISBN

978-4-480-44046-4

Cコード

0140

整理番号

-57-2

2025/07/10

判型

文庫判

ページ数

456

解説

内容紹介

丹念な取材から最新科学が示す「色の見え方」の驚くべき多様性と、悩ましい検査の問題が明らかに。各紙20世紀には、学校健診から雇用時検診までありとあらゆる場面で制度的色覚検査が行われ、「異常」の人には大きな制限が課されました。極端な扱いはなくなったものの、未だに前世紀の「色覚」観と検査の問題は社会の隅々にまで浸透しているように思えます。本書は、色覚に関する誤解を塗りかえるべく「色」をめぐる冒険へと旅立った科学作家が、進化生物学、視覚科学、ゲノム科学、医学等の最先端に接して、様々な事象を再点検。「色覚」とは何なのか。そもそも、あなたが見ている赤と私が見ている赤は同じなのだろうか? 取材の末見えてきたのは、「多様性と連続性」の新しい地平でした。多くの取材を通して得た「色覚」についての新しい知見と考察を重ねた1冊。 

目次

新版の出版にあたって

はじめに
今、あらためて色覚を考える/ゲノム時代の練習問題/共鳴箱の中にいた/まずは自己紹介――小学生の色覚体験/就学や就労をめぐって/眼科医たちは警鐘を鳴らし、科学者は壮大なビジョンを描く/引き裂かれる感覚/ロードマップを示す

準備の章 「先天色覚異常」ってなんだろう
光そのものに色はついていない/分光分布(スペクトル)とは?/3色説と反対色説/色覚のセンサー「錐体細胞」が見つかった/「先天色覚異常」の仕組み/「先天色覚異常」が男性に多い理由/2色覚か3色覚か/「1型(P型)色覚」か「2型(D型)色覚」か/見え方はどう違う?/石原表は優秀な検査法である/「確定診断」にはアノマロスコープ/パネルD15は、「程度判定」と「タイプ分け」に活用される

第1部 “今”を知り、古きを温(たず)ねる
第1章 21世紀の眼科のリアリティ
パイプのけむりと21世紀/「色覚検査廃止」がもたらしたもの/就職の今昔/就職試験で「色覚異常」を知る/色覚の異常の程度による業務への支障の目安/論考「先天色覚異常の職業上の問題点」について/制度が変わると相談内容も変わる/自己責任の問題/検査を徹底すれば事態は改善できるのか/「色覚異常」はなぜ特別なのか/「目下の課題」と「背景の問題」

第2章 20世紀の当事者と社会のリアリティ
21世紀の新たな問題/2つの恐怖/当事者に残した傷跡をたどる/まずは本人が衝撃を受ける/母親の動揺/一族の問題/検定教科書が「職業適性」を語る/「結婚はよく考えろ」と教科書に書いてある!/背景には優生思想/「色盲」は優生手術の対象だった?/進学や就職をめぐって/理工では化学系、教育系では小学校課程の制限が大きい/1985年以降の進学/すべての業種に制限がある/1986年以降の就職/排除の装置として使われた?/循環する議論と閉塞感

第2部 21世紀の色覚のサイエンス
第3章 色覚の進化と遺伝
景色が変わる体験/魚類から霊長類まで/森の環境が色覚の進化をうながした?/ヒトの4割は「色覚異常」?/野生の広鼻猿の行動研究へ/「3色型」は有利ではない?/実は、「2色型」の方が有利?/飼育下のサルでも裏付けがある「2色型」の有利/やっとみつかった「3色型」のメリット/ヒトの色覚進化をめぐって/ヒトの「2色覚」「異常3色覚」が有利な局面/色覚「異常」ではない?多様性だ/異常だとしたら、とてももたない/ヒトの色覚は「多様性」を体現する/とはいっても見えていない/背景に優生学の反省がある?

第4章 目に入った光が色になるまで
21世紀のサイエンスへ/「色の弁別」と「色の見え」は違う/水晶体は年齢とともに着色する/3錐体の刺激値の比が色を作る/ヒトにも「4色覚」の人がいる?/その場で差を取って、遠くに飛ばす/めでたしめでたし、ではなかった/中間色まで平等に扱われている/例えば鮮やかな森の緑の体験/日本語話者の色カテゴリー/「水色」は新しい基本色だった/個々人で「色の境界」は違う/緑の野菜が「青物」である理由/言語が色覚に影響する?/「先天色覚異常」の当事者は?/色覚は「普遍性とともにある多様性」だ/ザ・ドレスの衝撃/色覚は健全な錯視である/2015年仙台の国際色覚学会にて/色の恒常性の実験

第3部 色覚の医学と科学をめぐって
第5章 多様な、そして、連続したもの
多様な色覚の世界から/石原表と再会する/5表の「誤読」/パネルD15は「正解」する/アノマロスコープ登場/正常? だった?/石原表が読めない病?/東京女子医科大学眼科学教室・加藤金吉教授が物申す/「色覚異常」の頻度は本当に5 %なのか/境界線はなしとするのが妥当/アメリカ空軍のCCTの実際/アノマロスコープよりも適している?/スーパーノーマル登場/イギリス民間航空局が開発したCAD/CADを使う/安全とフェアネス/他の職業にはどう適用する?/では、分布は連続的なのか/スクリーニングで何を知りたいのか

第6章 誰が誰をあぶり出すのか ―― 色覚スクリーニングをめぐって
軽いほど危険/「異常」は際限なく広がる/科学的な根拠が足りない?/スクリーニングとはなんだろう/クリアすべき諸条件/重要な健康問題?/石原表がスクリーニングと確定診断を兼ねる/負のラベリング効果/自然史は織り込めているか/遺伝的なスクリーニング検査なのか/慎重に行うべき理由 ?? 乳がんスクリーニングを例に/偽陽性の問題/過剰診断について/色覚の偽陽性は?/石原表は魔法の検査?/そもそも、感度と特異度ってなに?/著作権者も性能を知らない/海外の研究者もそこが気になっていた/小学1年男子が全員検査を受けたら/眼科医は毎年5万2700人を確定診断しなければならない/偽陽性は多い/実感がない医師/なぜ女子の「誤診率」は高いのか/頻度が低いと「偽陽性の割合」が増える/日本の色覚検査は、やはり「魔法の検査」だった?/旧版の反省――厳密な検査をすれば解決するわけではない/すでにわたしたちは、多様な色覚を受け入れていた/社会安全は脅かされたのか?/「色覚異常」と「交通事故」/敬愛する眼科医たちへ

終章 残響を鎮める、新しい物語を始める
共鳴箱の中で/「背景の問題」 ―― 検査法と定義の癒着が景色を覆い隠した/「目下の課題」―― 従来型の色覚検査は解決策にならない/検査をするなら「臨床的に意味のある」ものを/職業適性のための検査は?/パネルD15は職業適性を見るために使えるか/環境を整える/「色覚観」を組み替える/20世紀の残響を鎮めるための方向性とは/当事者団体などの支援を意識する/色覚問題からリンクを張る/新型出生前診断をめぐって/「あいまい性」とACCE基準/連続体(スペクトラム)として捉えること――自閉スペクトラム症について/だれも「できそこない」ではない/「発達障害天才論」をめぐって

旧版のあとがき
文庫版(新版)のためのあとがき

補遺1 ヒトの4割は「隠れ色覚異常」という話
ヒトの色覚の様々なタイプができるメカニズム ―― 不等交叉をめぐって/相同組み換えの場合/不等交叉の場合/融合遺伝子ができる/L-M融合遺伝子の大きなバリエーション/「明確な」と「軽微な」の違いの由来/「正常か異常か」から「連続的で多様な」色覚像へ

補遺2 日本の小学生男児をめぐる「先天色覚異常」の2×2表を導く

補遺3 「困っている人」と「困っていない人」
「困っている人」を見つけ出す/「2色覚」の人はどれくらい?/「色の誤認」と「色の見分け困難」の調査/そもそも自覚できるのか/当事者の間にもある大きな違い/「困っている人」の利益を薄めないために/「分断」を意識すること

補遺4 職業適性のための検査をめぐって
多くの職業適性の目安になっているパネルD15/「合格」「不合格」の重なりが大きい/「2色覚」の数%は「合格」する/職業適性の判断は今後も変わりうる/ユニバーサルデザインを取り入れられないのか

補遺5 用語の問題を考える
厳しい現実に向き合うために、「異常」は廃止することはできない?/医学の言葉と科学の言葉/色覚特性/色覚障害/P、D、C、そして「色弱者」/「少数色覚」と「多数色覚」/色覚多様性の本質的な面を捉えた表現を

著作者プロフィール

川端裕人

( かわばた・ひろと )

川端 裕人(かわばた・ひろと):1964年兵庫県明石市生まれ、千葉県千葉市育ち。文筆家。東京大学教養学部卒業。『ドードーをめぐる堂々めぐり──正保四年に消えた絶滅鳥を追って』『おしゃべりな絶滅動物たち──会えそうで会えなかった生きものと語る未来』(ともに岩波書店)、『我々はなぜ我々だけなのか──アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社、科学ジャーナリスト賞・講談社科学出版賞受賞)、『科学の最前線を切りひらく!』(筑摩書房)、小説に『ドードー鳥と孤独鳥』(国書刊行会、新田次郎文学賞受賞)、『川の名前』(早川書房)、『銀河のワールドカップ』(集英社)など多数。色覚をめぐる絵本に、『いろ・いろ 色覚と進化のひみつ』(絵・中垣ゆたか、講談社)がある。

お詫びと訂正

ちくま文庫『新版 「色のふしぎ」と不思議な社会』(川端裕人著、2025年7月10日発行)に、
下記の誤りがございました。

P.432、10行目
【誤】を求めているおり
【正】を求めており

P.437、2行目
【誤】「異常」と呼ぶことに
【正】別の呼称を使っても

上記の通り、お詫びして訂正いたします。

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