高取正男
( たかとり・まさお )高取 正男(たかとり・まさお):1926-81年。京都大学文学部史学科卒業。京都女子大学教授などをつとめた。専門は民俗学、日本文化史。著書に『日本的思考の原型』『民俗のこころ』(ともに、ちくま学芸文庫)、『神道の成立』(平凡社ライブラリー)、『宗教以前』(共著、ちくま学芸文庫)などがある。
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我が国古来の民俗信仰の上にやってきた外来の仏教は、どのようにして土着化したのか。この問いに、宗教学ではなく民俗学と歴史学の手法によってアプローチした本書は、今も日本人の信仰を考えるうえで多くの示唆を与えてくれる。日本仏教の異端である薩摩のカヤカベ教が伝える親鸞のミイラ言説や、湯殿山の即身仏ミイラ信仰などに注目。そこから逆に照射される日本仏教の「正統」と、その正統に同化されなかった日本仏教の「影」の信仰とを対比させることで、仏教土着の一方で日本人が持ち続けた民俗信仰の問題を掘り下げて考察する。解説 阿満利麿
まえがき
信仰の風土
排仏の底流
明治維新と廃仏毀釈/中国での先蹤/日本の仏教受容/仏教忌避の心情/神事と仏事の対置
影の信仰
美濃苗木藩領の廃仏/民俗信仰との癒着/村境の地蔵尊/ノツゴの伝承/夭折した子供たち/影の信仰の内面で
正統者の原像
薩藩の一向宗禁制
戦国末の島津家/独自の宗門制度/未成熟な地縁村落/寺檀制度の成立以前/ウッガンサーの祭り/村共同体の核心
カヤカベ教
地縁の教線/政教の未分離/偽装された宗旨/深夜の法会/掟としての鶏精進/二重の葬儀
御状の内容
土着した宗教/往生の報知/現世の投影/奉書としての御状/知識内房と杓取り/信心の根源
呪術と宗教
原始思惟の再生
『法語』と『ミオチキ』/宗祖のカチビル/歴史における反面の鏡/信仰のアタヴィズム/外法箱の中味/命終時の一念
信仰重層の構造
神のみあれ/三枝祭の原義/神おろしの祭具/幣と玉串/採り物歌の背景
定着民の信仰
非農耕者の群れ/稼業の由緒/国栖の神と炭焼長者譚/非定着民との疎隔/村共同体の亀裂/生きのびるために/贖罪の施物
楽園恢復の願い
精神のカタルシス/永住不能の在所/五分の虫/呪術から宗教へ/凡人遁世の軌跡/楽園喪失感のうえに
解説 仏教いまだ土着せず(阿満利麿)