あさのあつこ
( あさの・あつこ )あさの あつこ:1954(昭和29)年、岡山県生れ。青山学院大学文学部卒業。小学校講師ののち、作家デビュー。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バッテリーII』で日本児童文学者協会賞、『バッテリーI~VI』で小学館児童出版文化賞、『たまゆら』で島清恋愛文学賞を受賞。著書は『福音の少年』『No.6』シリーズ、『弥勒の月』『アーセナルにおいでよ』など多数。
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世の中にあふれている誰かが描いた紛(まが)い物の物語。それらは時にあなたの行く手を阻んだりもする。その話はあなたの物語ではない。「書いたり」「読んだり」を通して、自分の内にあるあなただけの物語、あなただけの希望を見つめてみよう。
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わたしたちの周りは渦だらけです。
誰かが作り上げた紛い物の物語で満ちています。うっかりすると、?み込まれそうになりますね。?み込まれて、周りのみんなと同じ物語を共有したほうが楽にも感じます。
紛い物の物語。
その最たるものが〝絶望の物語″でしょうか。確かに今は、希望より絶望のほうが現実味を持ち得る時代です。安易に希望を語る言葉は、信用なりません。信用できるものなんて、ほとんどないような気にさえなります。戦争、飢餓、差別、格差、貧困、災害……この世界は絶望の物語と薄っぺらい希望の物語ばかりが横行しているみたいです。
でも、それはあなたの絶望ではありません。わたしの絶望でもありません。正体不明の存在さえもあやふやな誰かのばらまいた絶望です。いわば、幻、蜃気楼です。実体などありません。生々しさのない幻だから、受け入れやすいのです。耳触りがよくて、美しくて、あなたの全てをわかると言い、あなたはこうするべきだと諭す。そして、絶望して当然だと囁く。あなたの絶望を知りもしないし、知ろうともしないくせに、偽物の共感だけを垂れ流してくる。
そんなものに、?み込まれてはなりません。
自分の絶望と絶望の底であなたが気が付いた希望をこそ、語っていきましょう。しゃべって、表現していきましょう。
書いていきましょう。
あなたの絶望も、あなたの希望も唯一無二のものです。あなただけのものです。それを手放して、巷にあふれた偽の物語と取り替えるなんてもったいなさ過ぎませんか。
惑わされないで。負けないで。そして、生き抜いて。
死ぬことで閉じるのではなく、生き抜くことで拓けていく道を探してみましょう。そのために書き続けてみてください。そして、読んでみてください。(「第5章 自分の物語は」より)
第1章 夢と生きづらさ
第2章 溶けるもの、溶けないもの── 決めつけの正体
第3章 書いてみよう
第4章 字スケッチをやってみよう
第5章 自分の物語は