反福祉論 ─新時代のセーフティーネットを求めて
制度はもう我々を守ってくれない
福祉に頼らずに生き生きと暮らす、生活困窮者やホームレス。制度に代わる保障を発達させてきた彼らの生活実践に学び、福祉の限界を超える新しい社会を構想する。
福祉は財政的に限界に達している。一方、さらなる拡充を望む声も根強い。ではどうすればよいのだろうか。不法占拠者や生活困窮者、災害被災者、ホームレスなど、福祉の制度から漏れてきた人びとが、公助に頼らず自助・共助によって展開する生き生きとした暮らしを検証。制度に代わるセーフティーネットの仕掛けを発達させてきた彼らの生き方に学び、「反福祉」の考え方を提唱する。制度にがんじがらめになっている福祉の現状に警鐘を鳴らし、誰もが生きやすい社会を構想する。
はじめに―いまなぜ「反福祉論」か
1 現代の「忘れられた日本人」―制度外の人びと自身による生活保障(「飛行場」に住まう在日コリアン―不法占拠者による実践
福祉版「シンドラーのリスト」―生活困窮者の最後の拠り所
大津波における「ノアの箱舟」―災害被災者の伝統的行動規範
ドヤ街のスピリチュアル・ケア―ホームレスはなぜ教会へ?)
2 福祉制度に替わるセーフティーネット(ホームレスとしてのイエス・キリスト―制度からの解放宣言
福祉に挑むドン・キホーテ―ある研究者の知的遍歴
生きられた法―法外世界の豊饒な議論へ)
2016.12.25 ドルフィン・キック
「反福祉論」と題されているが、福祉にとって有益な示唆と展望を与える好個の書。金菱氏の文章は、雄勁で快く、文章の愉楽を伝える。社会福祉の外に、読者の目を導く書き手である。一方、大澤氏は、福祉の基本を押さえながら、社会福祉の未だ存在しないあり方を、実践知から、新しい構築構造を導きだそうと考察する。この書物は、社会福祉の基本を前提としながら、社会福祉の外部や、未来と明らかにつなげてくれる、短いが、それゆえ、手早く読める、研究と実践に有益な書物である。タイトルは、反福祉だが、福祉外からのアプローチが、まだ存在しない社会福祉の制度と構造へと、現在の社会福祉の地点から、示唆的に導かれる読者の研究に展望を与える。素晴らしい新書である。
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