太子堂正称
( たいしどう・まさのり )太子堂 正称(たいしどう・まさのり):1974年生まれ。経済哲学・社会思想史専攻。慶應義塾大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、東洋大学経済学部准教授。主な共編著に、『ハイエクを読む』(共著、ナカニシヤ出版)、『経済思想の中の貧困・福祉』(共著、ミネルヴァ書房)などがある。
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社会思想の「迷宮」を一望する
多岐にわたる業績の全体像を整理し、現代思想の水脈に配置。
偉大な思想家の独創性に肉薄し、思想の輪郭を大きくえがく。
20世紀に屹立する偉大な思想家F・ハイエク。その思想は、経済学、政治思想、心理学など、幅広い領域に大きな影響をあたえた。本書では、縦横無尽に往還するハイエクの思考を複眼的にとらえ、「法の支配」「自生的秩序」などの概念のもとに展開したハイエク思想の全体像を提示する。ケインズ、マッハ、M・ポランニー、F・ナイト、ロールズなどと対比することで、ハイエクの独創性と先見性を浮かび上がらせ、日本では短絡的に語られることが多かったハイエクの自由主義思想を更新する画期的な入門書。
はじめに
第1章 若き日のハイエクとその知的伝統
ハイエクの一族/ハイエクの幼年時代/軍隊生活と学問への目覚め/戦後の大混乱と社会主義への関心/オーストリア学派/知性の二つのかたち/ミーゼスとの邂逅/二つの目の博士号とハイエク思想の特徴/アメリカ留学/ガイスト・クライスでの交友/「遠縁の従兄」ウィトゲンシュタイン
第2章 ケインズとハイエク―世紀の経済論戦
結婚と帰国後の研究生活/迂回生産の理論/自然利子率と市場利子率/信用創造による迂回生産の攪乱/バブルの後の恐慌/LSE/ケインズ『貨幣論』(一九三〇年)/ケインズとの論戦/ケインズの転換/『一般理論』(一九三六年)における「不確実性」/ケインズ革命/ハイエクの雌伏/ケインズの死
第3章 ハイエクの「転換」
ケインズ墓碑銘/シャーロック・ホームズのパラドックス/社会主義経済計算論争/計画経済への価格メカニズムの導入?/論争の意義/「競争の意味」/ハイエクの「転換」/フランク・ナイトと不確実性の概念/「将来志向的」な投資/「資本制生産」のシステム/『隷属への道』(一九四四年)/大きな転機
第4章 「関係性」の心理学―感覚秩序論とその思想連関
グランド・ツアー/『感覚秩序』(一九五二年)/「分類」の原理/脳内の「地図」と「モデル」/心理学上の位置/行動主義と精神分析/「感覚秩序」の文脈/マッハとハイエク/ウィトゲンシュタインとハイエク/論理実証主義とハイエク/ポパーとハイエク/マイケル・ポランニーとハイエク/ノイラートの船/ハイエクの独自性
第5章 自由の条件
「社会主義の世紀」の終焉と「福祉国家」の時代/自由とは強制のないこと/自由社会を育成する「庭師」/「設計」と「デザイン」の相違/最低所得保障としての社会保障/教育と研究活動の重要性/福祉国家批判を超えて/欧州への帰還
第6章 自生的秩序論へ
原理の説明/自生的秩序/ルールと秩序の区別/二種類のルールと二種類の秩序/正義感覚と「フェア・プレイ」の精神/法の階層構造/「裁判官」による法の「発見」/社会正義の幻想/カタラクシーとしての市場秩序/二つの立法議会と主権概念の放棄/ハイエクと共和主義/ノーベル経済学賞
終章 ハイエクの自由論
二つの自由主義/ロールズ『正義論』(一九七一年)/ノージックの最小国家論/サンデルの共同体主義/なぜ私は保守主義ではないのか/「一般意見」の支配―ヒューム/「一般意志」の支配―ルソー/新自由主義とはなにか/カール・ポランニーとハイエク/貨幣の脱国有化論/フリードマンとハイエク/ハイエクの時代?/ハイエクの死
おわりに
参考文献
事項索引
人名索引