ちくまの教科書 > 国語通信 > 連載 > 「高ため」を黙読する授業第四回(2/6)

「高ため」を黙読する授業

(この連載は、機関誌『国語通信』1996年春号~1999年春号に掲載された文章を転載したものです。)
第1回 わたしのアンソロジー
第2回 密室をつくる
第3回 逆習シール
第4回 テキストを編集する
第5回 モーツァルトへの手紙
第6回 教室に風を入れる
服部左右一(はっとり・さういち)
愛知県立小牧高等学校教諭
元愛知県立小牧工業高等学校教諭
『高校生のための文章読本』編者
筑摩書房教科書編集委員
長年「表現」分野の指導メソッド開発に携わる。

第4回 テキストを編集する
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2 読むことの習慣

 これまで黙読が授業の中の主役になったことはない。黙読は漢字を調べたり概略をつかんだりする予習のためだとか、教科書の設問に答えるために行なわれることがほとんどだった。何らかの目標をクリアするための手段としての読み方に位置付けられていて、いわば主役を盛り上げるための脇役であったと言える。

 「高ため」を黙読する授業では文字通り黙読が主役をつとめることになるが、出番はいったいどれくらいあるのだろうか。

 一年生の国語は二単位で、週二時間、年間六〇時間ほどの授業時数である。今年はそのうちの約四分の一、一〇~一五時間を「高ため」黙読の授業にあてた。残りの時間は教科書を使っての授業にした。

 年間にすると一〇~一五時間ぐらいの時間だが、これは散発的にではなく、ある程度集中的に、そして定期的に続けることが重要であると思うようになった。読むことの習慣が生徒の気持ちと身体の両面に根付くには一定期間継続することが大事だ。

 継続的に行なうには一週間の二回のうちの一回を黙読の授業にあてるとか、集中的な場合は二学期の後半に読んでいくとかの方法が考えられる。何回か繰り返しているうちに、この時間は自分で文章を読むのだ、読まなければならないという習慣ができてくる。

 本の中に書かれたことばと一定の時間付き合うことを読むことだとすると、いくつかの付き合い方の中の一つとして黙読を位置付けることができる。もちろん、意味を考えたり、感想を書いたり、参考図書を調べたり、話し合ったりすることも読むことの方法なのだが、それらの前提として黙読が横たわっている。黙読はわたしたちの日常の暮らしではほとんど無意識的な作業になっていて、半ば習慣となっている。

 世の中の一般で「読んだ」と言えば、この習慣的な黙読を終えることを意味するが、長年教師をやっているとついつい疑り深くなり、生徒がほんとうに読んでいるかどうかを確かめなければ不安でしょうがなくなる。前出の①~⑥をノートに書き出していれば、読むことを経験したと認めていいと思うのだが、それだけでは安心でないのが教師である。評価をどうするのか、テストをどうするのかなど、自分でどんどん問題を難しくしてしまうヤな稼業だ。

 そこで、ノートを毎時間提出させて、点検することにした。①~⑥までをすべて書いていたら「A」、どこかが抜けていたら「B」、①②ぐらいだと「C」とした。④の文章については説得力のあるものとオリジナルな見方の部分に丸印を付けて、その丸印が二、三個付いたものを特に「A゜」として、優秀者とした。

 毎時間提出されたノートによって五段階評価(無し、C、B、A、A゜)をすることになる。各学期ごとにこれを集計し、平常点とした。毎時間きちんとやっている子はかなりの平常点を獲得することになる。

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