ちくまの教科書 > 国語通信 > 連載 > 「高ため」を黙読する授業第一回(3/6)
(この連載は、機関誌『国語通信』1996年春号~1999年春号に掲載された文章を転載したものです。)
服部左右一(はっとり・さういち)
愛知県立小牧高等学校教諭
元愛知県立小牧工業高等学校教諭
『高校生のための文章読本』編者
筑摩書房教科書編集委員
長年「表現」分野の指導メソッド開発に携わる。
第1回 わたしのアンソロジー
第2回 密室をつくる
第3回 逆習シール
第4回 テキストを編集する
第5回 モーツァルトへの手紙
第6回 教室に風を入れる
第1回 私のアンソロジー
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3 ノートづくり

 一回の授業に多くのことを期待しない。そこから始めてみよう。一回の授業で生徒自身が一つの文章を読む。これだけにしぼる。授業を読書する時間に限定することにした。

 三年生は『高校生のための小説案内』(筑摩書房)を副読本にしていた。そこに収録された作品は一作二~六ページのみじかいものだから、これを一回分とする。これくらいだと読むことが苦手な生徒でも一時間あれば読み通せる分量だ。

 すでに書いたように読むことが中心の、読むだけの時間である。しかし、「○○を読みなさい」と指示するだけではワイワイガヤガヤと騒々しいだけである。読んだという証しに「読書ノート」を作らせ、一回分一ページという指示で次の事項を書き込ませた。

 ① 作者紹介を写す。(客観的知識)

 ② リードを写す。(編集者からのメッセージ)

 ③ 本文の中からもっとも気に入った箇所を三行以上引用する。(作者の声)

 ④ ③について感想を一行以上書く。(読者のオリジナリティをちょっぴり)

 ⑤ 覚えたい漢字を一〇語以上書き出す。(ことばの学習)

 この授業は教室全員が一斉に同じスピードで読むのではない。一人ひとり自分のスピードで読めばいいのである。四〇人の生徒がいれば四〇通りの読書体験があり、そこから生まれるそれぞれの読み方がある。それを実行してもらうのだ。

 同じ一時間の読書であっても①と②しか書いていない者、③までの者、④⑤までの者と提出されたノートを見ればいろいろだ。電気基礎とか数学などと併用のノートだったりもするが、ノートの提出によって進み具合いを確かめることができる。指名読みのときのように他の生徒による音読を漫然と聞く受け身的な態度は通用しない。少なくとも一度は自分の力で読み通すことが求められる。

 ノートの最重点は③である。①②を写したら(工業高校生は写すことに抵抗感が少ないのでけっこうきれいに写す)、③をめざして本文に目をこらしている。全員とはいえないが、とにかく何人かが本文とにらめっこしている姿がわたしの心を打った。こんなに真剣な眼差しはマンガの隠し読み以外お目にかかることはない。シメシメやっているワイと満足げに教室内を眺める。

 どこでもいい。ほんのちょっとしたエピソードだとか登場人物のしぐさや反応が面白いだとか、いろいろ出てきていい。作品に近づくとっかかりを自分で見つける読書の時間、これこそが読むことの黄金の時間ではないのだろうか。ほんの数分間でもいいから、卒業を間近に控えた国語の授業の中でこの黄金の時間を体験する生徒が何人かいてくれれば、などとついつい感傷的になってしまった。

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